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化学肥料や農薬をいっさい使わない田圃には有機物を分解する高等微生物が生きる。
田圃から持ち出すのはお米だけ。稲藁も籾殻も全部田圃に戻す。戻した有機物は微生物が分解して豊穣の土となす。稲が水中、土中から豊かな恵みを吸収するのも微生物の働き。
有機物を豊かに取り込んではじめてバランスのとれた栄養豊かな米が実る。米はいのちのカプセル。そのいのちを養うのは土の力、微生物の力。そして微生物を豊かにはぐくむのが役割を終えて田圃の土になる稲藁籾殻。こんなところにもいのちの連鎖がある。
化学肥料や農薬で固めた土には無機養分の取り込みをもっぱらにする古在菌ばかりが増える。古在菌ばかりの田圃の土は有機物の分解ができない。稲藁や籾殻は分解されないままに成る。稲藁や籾殻を鋤込むと、分解できずにガスがわくといって燃やしてしまう農家が多いのは残念なことだが、それはそれだけ土が死んでいるということだ。
死んだ土から無機質だけを取り込んで育つ稲は、タンパク質の中でもアンモニアやアミドという質の悪いものしか作れない。アンモニアは毒性があるし、アミドは苦み成分だ。このアミドをドロオイムシ、ウンカ、かめむしなどの有害虫が好んで食べる。 苦い作物には虫が付く。だから除草剤で防除する。農薬や化学肥料を使う農業とはそういうものだ。実った作物の栄養価さえ損なってしまうのだ。
いっぽう、ミネラルやタンパク質を分解する高等微生物の多い有機農業の田圃からはアミノ酸をたくさん含んだ米がとれる。アミノ酸はアミドに比べ分子構造が大きいのでかめ虫やウンカにとっては効率がわるいらしい。かれらは有機農作物には近寄らない。アミノ酸を好むのは人間だ。有機の米や野菜が甘いのはアミノ酸のうまみのおかげだ。
子供たちに本物の味を教えたかったら有機栽培のものを食べさせよう。無農薬ではなく有機栽培。JASで無農薬というとき、化学肥料の使用は認められているからだ。農薬も化学肥料も使わない、という決意があってはじめて土は甦るし、生き返った土だけがいのちの基を生み出すからだ。
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稲藁や籾殻は土に返すが食べてしまった米は返せない。そこでいただいた分はお返しをする。まずはこめぬか。これを主体に魚粉・菜種かす・海鳥の糞や糖蜜などにEM菌を入れて熟成させてぼかし肥をつくる。そのほかに牛糞堆肥。そして炭。これらを圃場の条件にもよるが1反あたり1トンを目安に鋤込んでいく。ぼかしと堆肥を散布した直後の圃場。このあと初夏までに幾度かの耕起を繰り返す。
愛用のトラクター
ロータリーだけでなくドライブハロー、畦ぬり機、トレーラーや堆肥スプレッダーの牽引など、アタッチメントの付け替えも頻繁に行うため1台では間に合わない。春になれば2台のトラクターがフル稼働となる。
畦ぬり機をつかって田圃のくろをつくる
有機農業の基本は深水管理。30センチの湛水が可能なように自前でくろを高く作る。雑草管理も冷害対策も水管理によってかなりのところまでコントロール可能だ。耕地整理で圃場が整備されてもくろは15センチほどしか作ってくれない。農薬化学肥料を使う農法を前提にしているからだ。くろのない田圃なんか田圃じゃない。毎年作ってはまたつくりなおす。有機の田圃のいたずら坊主のモグラ穴をつぶしながら丁寧に時間をかけてつくっていく。こうしたすべての機械は共同使用できない。有機でない圃場を走った機械は汚染された土を持ち込むおそれがあるので有機の圃場に持ち込めないからだ。そのため高価な機械を何の助成もないままに歯を食いしばって買いそろえてきた。いくら高くてもなければできない。そういう機械が農業にはたくさんある。


温湯浸法の様子
ばか苗病などの予防のため種籾を温湯消毒するもの。このあと塩水選、種子浸潤をおこない、発芽を待つ。
自家採取した種籾を使用し、この間、農薬など化学物質は一切使用しない。