No.15



☆産経新聞群馬版毎週金曜日掲載で『群馬女性5人のリレーエッセー』が2005年1月からスタートしています。
5週に1回づつ寄稿している浦部農園マダム・オリザの文章を産経新聞の承諾を得て転載します。

No.11 2006.2.17 産経新聞群馬版掲載『群馬女性5人のリレーエッセー』より

 古代米の栽培は驚くことの連続でした。塩水選が出来ないほどばらつきのひどい種籾に驚き、バラバラの不揃いな発芽に驚き、ばか苗病と苗イモチに驚き、そして本田に移植してからはどこまでのびるのかと疑うほどの丈の高さにおどろきと、何もかもが経験したことのない有様でした。出穂期もバラバラなら登熟期もばらばら、おまけに稲穂の色も形状もバラバラなのです。苗は深い緑で、ところどころに紫の苗が混じります。一箱の苗箱に何十本もの馬鹿苗も混じります。見たことのない色形に苗のうちから病気か、失敗かと周囲から取りざたされるのは、内心穏やかならざるものがありました。
 生育にばらつきがあるため田植機にかけてもうまく移植できず欠株だらけ、補植はするものの育ちきらない苗は水を深く張れば水没してしまいます。有機の基本は深水管理、そうはわかっていてもどうにもなりません。水が浅ければたちまち眠っていた雑草が顔を出します。夜明けとともに田んぼを見回るのもそこそこに、夫は朝6時には新町駅から東京へ出勤せねばなりません。田んぼの水見は全く経験のない私の仕事になりますが、ちょうどいい水の加減というのがつかめない。休みがきてようやく夫が明るい日差しの下で田んぼを見回る頃にはもう草が芽を出しているという有様。水見もろくに出来なかった私のせいで、しなくてもよい草取りもずいぶんとすることになったわけです。
 それまでの何年か、有機でも草を出さずにきた田んぼに、コナギやカヤツリクサなどの田の草がはびこり、さしもの古代米も窒息しそうな気配、見かねた私は夫が出かけた日中に見よう見まねで草取りに入りました。まだベーチェットの症状が完全に治まっているわけではない体ですから、田んぼにはいるということが病状を悪化させるかもしれないとは思いましたが、たった一人で夜中に草取りに入る夫を、たとえ猫の手ほどであっても助けになればと思ったのです。

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