No.42


2010.6.16上毛新聞掲載より

冷夏への不安
心配な農家の収入源


 今年の天候は1980年、93年の大冷害の年と酷似しているのだとか。長期予報でも気温は低いまま推移するといている。
 米農家としては気がもめるけれど、世間ではキャベツの高騰が多少報じられた程度で、米の不作を心配する声は聞かれない。
 これほどの低温に、米の不作を心配する声がないのは不思議だと思っていたのだが、それはこちらの認識不足であるらしい。農水省や出荷団体は米不足どころか過剰米の発生に神経をとがらせているというのだ。 
 何でも2008年産米の需要見通しの読み間違いで、民間在庫は前年比で50万トン以上も増え、今年もさらに過剰在庫が懸念されているのだとか。彼らにとって冷夏は大量在庫を消化する好機なのかもしれないのだ。
 しかし生産農家にとってことは深刻だ。冷夏で不作なら収入は少なくなる。その上政権交代で実現した個別所得保障モデル対策事業による農家への助成金を当て込んだ業者の買いたたきも始まっているという。
 何とも不安な先行きだが、農家は値動きをみて動くわけにはいかない。自然相手の仕事は時が来れば種をまき、時至れば刈り取るだけだ。
 今年のように雨が多く温度が上がらなくても、時期が来れば麦は穂首を垂れて収穫を待っている。農園でも大麦の収穫が始まった。 大麦はもっとも古くから栽培されてきた作物の一つで、世界中で食べられてきた。日本では押し麦や麦茶でおなじみの穀物だが、麦味噌の麹にも使われる。
 日本の食文化と深い関わりがあるのだが、実は日本で流通する大麦のほとんどが輸入である。有機栽培はさらに少ない。有機大麦を扱うJAS認証工場は日本に1社しかないのだが、そこに出荷している有機大麦生産者は、とうとう浦部農園だけになってしまったそうだ。国産有機押し麦・丸麦はすべて浦部農園産の大麦を使用しているということだ。といっても農園の生産規模はわずか14ヘクタール、収穫量は50トンにも満たない。日本の食文化を支えてきた穀物のひとつが、小さな農家ただ1軒に支えられているというのは異常な事態ではあるまいか。
 過剰在庫のおかげで冷害も怖くないかもしれない。しかし低迷する価格に冷害が追い打ちをかければ、老骨にむち打って日本農業を支えてきた人たちが、離農・廃業していくのではないかと思うと、その方がもっと怖い。
 次の世代が育たぬうちに彼らが現場から去ってしまえば、農の技術も失われるのではあるまいか。
 いろんなことが気にかかる夏の初めである。


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