☆産経新聞群馬版毎週金曜日掲載で『群馬女性5人のリレーエッセー』が2005年1月からスタートしています。
5週に1回づつ寄稿している浦部農園マダム・オリザの文章を産経新聞の承諾を得て転載します。
No.17 2006.12.1 産経新聞群馬版掲載『群馬女性5人のリレーエッセー』より
体は食べたものだけでできています。だから健康で暮らすためには何を食べるかはとても大切。では具体的にはどうすればよいのか、基準があれば混乱することなくバランスの良い食事を実現できるのではないでしょうか。その基準の一つが歯の構成です。歯は生物が進化の過程で獲得してきた位置を端的に示します。人間の歯は、臼歯、犬歯、門歯が5:2:1となっています。この事実は人が雑食性で主として穀物を食べて進化してきたことを示します。どんなに食べ物が豊富でも、歯の構成とかけ離れた食は体に無理を強いることになります。 もう一つの基準は、環境を食べるということ。それは季節であったり、地域性であったりします。夏には夏の野菜を食べ、冬には冬の野菜根菜を食べることは、季節に同化して生きていく一番の近道。暑いときに実る野菜は体を冷やしてくれます。乾きがちな体にたっぷりと水分を与えると同時に利尿作用を活発にし、余分な水を排泄してくれます。冬野菜は栄養たっぷり、体を温めてくれます。季節だけではなく風土もまた人の食性を規定してきました。牧畜や狩猟によっていのちをつないだ民族と、農耕によって暮らしを紡いできた民族では腸の長さが違います。長年食べ続けてきたものに体が適応することで民族固有の食性が培われ、その獲得には少なくとも300年かかるといわれます。
私たちはこうした制約に適応しながら、今日まで生き延びてきたわけですが、現代にいたってその様相が急変しています。いまや科学技術の発達で世界中から季節を問わずさまざまな食材を入手できるようになりました。そのため、ともすれば自然界における位置や、生かされてきた環境を超越して、豊かさを享楽できる時代が来たかのような錯覚さえ起こります。けれど残念ながら体は簡単には変わりません。そのうえ、一見豊かさをもたらしてきたかに見える生産活動が、同時に深刻な環境破壊をもたらしてきたことも問題を複雑にしています。次回からは食事と体の関わりを具体的に見ていきたいと思います。
No.18 2006.1.19 産経新聞群馬版掲載『群馬女性5人のリレーエッセー』より
12月はじめに体調を崩してから1ヶ月、15年近く押さえ込んできたベーチェットの症状が再発したらしい。口腔内のアフタに始まって、四肢の関節の炎症、皮膚疾患と続いて、次はどこに症状が出るかと冷や汗をかきましたがようやく沈静化してきてほっとしています。10年以上押さえ込んできたのにどうしてなのか、反省を込めて整理してみました。
まず第一に睡眠不足。例年のことながら稲刈り時期には新米の注文が殺到します。農作業と併行して出荷作業をこなすには睡眠時間を削るしかありません。第2には食べ過ぎ。働くときほど食事はシンプルかつ少食が良いのですが、亢進した食欲をコントロールできず、日頃節制している甘いものもずいぶんと口にしました。とはいえ昨年も同じような状況で体調を崩すことはなかったのです。去年までできたことが今年はできない、それが年齢なのだと初めて自分の人生の季節を自覚しました。更年期といわれる時期に不快な症状が何も起こらないことに油断と慢心があったのかもしれません。最後の踏ん張り、とでもいうべき場面で体が持ちこたえないのです。からだに粘りがなくなったという感覚です。生理がなくなると急に力がなくなるよ、という話は聞いていたのですが、認めたくないまま重ねた無理が、持病の再発という形であらわれたのかもしれません。病気で寝込んでいる間、子供の頃に母が床につく際に『世の中に寝るほど楽はなかりけり、浮き世の馬鹿はおきて働く』といった事など思い出していました。結核の父を支えて早朝から深夜までだれよりも働いた母にとって、やっと床につく時こそ至福の時間であったのでしょう。病んで寝込む身となってみれば、腰も痛いし背中も痛い、世の中に寝るほどの苦はなかりけり、といいたくなる次第。健康で働けるからこそ寝ることが至福の時間になるのだと改めて思いました。秋を迎えた私の人生、無駄なエネルギーの放散をさけるため葉を落とし、冬に備えて準備する樹木に学んで、落葉の時期を大切に、あじわって生きてみたいと思います。
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